GAP Reference

GAPメンバーによる、関係する図書文献のレビューを掲載しています。テレビゲームやアーカイブに関係するものがほとんどですが、テレビゲームに関係しうると思われるものを多岐にわたって紹介していますので是非ご参照ください。

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最新のReference

『世界最大デジタル映像アーカイブ INA』
エマニュエル・オーグ(著) 西 兼志 (訳)/白水社 文庫クセジュ919/2007年

近年、日本でもテレビ・ラジオ番組のアーカイブに対する関心が高まっている。2003年に、NHKが埼玉県川口市にNHKアーカイブスをオープンし、現在では、NHKの過去の作品6000本がインターネットで視聴できる*1。NHKの他、カナダ(CBC)、イギリス(BBC)など、多くの国営・公共放送局がかつて放送された番組のアーカイブをインターネットで公開しているが、その先駆的な役割を果たしたのが、INA(フランス国立視聴覚研究所)である*2。本書は、INAの設立から現在までの歩みを振り返りながら、各国の視聴覚資料アーカイブに影響を与えてきた、INAの壮大でかつ先駆的な取り組みを概観することと同時に、現在のINAが抱えている諸問題を提示する。本書は二部構成でかかれており、第一部でこれまでのINAの歩みを、第二部で今日のINAの姿を解説している。

INAはデスタン政権(1974-1981)下の文化政策の中で誕生した。INAの役割はORTF(フランス公共ラジオ・テレビ局)のこれまでのアー カイブの維持・更新と、視聴覚制作の研究・職業人の育成」だった。このためINAは、創立からアーカイブ作品の権利販売の問題、人材育成部門の遅れや放 送の現場とのズレ、研究開発によるソフト・クリエータの発掘とアーカイブとの隔離など様々な問題を経験してきた。ここまでは、おそらく各国の視聴覚資料 アーカイブが行ってきた事業との差は感じられないだろう。

INAにおいて最も特徴的なのは、法定納入とデジタル化である。法定納入は日本でいうところの国立国会図書館の納本制度にあたる*3。フランスではミッテラン政権(1981-1995)下の1988年に法定納入の見直しが行われ、その後、INAに対するラジオ・テレビ放送の法定納入が制定された。日本の納本制度が、出版物(図書、小冊子、逐次刊行物、楽譜、地図、パッケージ系電子出版物)を対象としているのに対し、フランスでは出版物の法定納入は 1537年の王立図書館開設から始まり、1925年には映画、写真、レコードへと拡張されている。さらにINAは公共事業としての資料の法定納入と商用アーカイブとしての公開と活用という2つの相反する責務を負うことになるとともに、テレビ・ラジオ放送における記録と資産の保存の場としての地位を固めることになる。1990年代にはA)顧客サービスの改善B)アーカイブ管理という二つの課題の解決策としてデジタル化に着手した。

現在、INAではこれまでに保存されてきた多種多様なメディアの保存とともにこれら資料に対して最大限の流通を提供するため、1)媒体の状態、 2)資料の文化・科学的価値3)商業的価値の3つの主要な基準をもとにデジタル化が進められている。また、人材育成にも力が注がれ、20世紀の偉人との 対談収録、教育研究、番組制作も行う。大学と共同による研究所の創設など、現在のINAの活動を挙げれば枚挙にいとまがない。副題が示す通り、世界最大デジタル映像アーカイブであり、世界の視聴覚資料アーカイブの先駆的な役割を果たすINAであるが、収集され、保存されていく資料=記録と人々の集合的記憶とのズレを絶えず危惧している。このことはつまり、アーカイブの中で先駆的な存在であるINAでさえも、人々が過去を知る際のニーズ、または集合的記憶の検証に対して、適切にかつ迅速に記録を提示するには未だに至っていないことを示している。フランスが国の文化政策とし巨額の予算をもって進めている、 INAの、その先端的かつ壮大な活動を模倣することは日本各地のアーカイブには経済的に不可能である。しかしながら、本書は、テレビゲームであれ、映画を含む、世界の、とりわけ日本の視聴覚アーカイブ組織・団体が人々の記憶と記録をつなぐための理念、本書が述べるところの公共性について今一度問い直し、かつ今後の活動、とりわけデジタルアーカイブについて検討する上で必携の一冊となるだろう。

*1 NHKアーカイブス http://www.nhk.or.jp/archives/index.html
*2 CBC Digital Archives http://archives.cbc.ca/
BBC Archive http://www.bbc.co.uk/archive/
INA http://www.ina.fr/
*3 納本制度について詳しくは http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit.html を参照のこと。