ネットワーク社会における文化・芸術の展望〜いま、なぜデジタル・アーカイブか〜
講師 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授 武邑光裕氏
【たぐち】

 1999年10月29日、立命館大学アートリサーチセンターで「ネットワーク社会における文化・芸術の展望〜いま、なぜデジタル・アーカイブか〜」というテーマの講演会が開催されました。講師は、東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授の武邑光裕氏。文化そしてアーカイブを通して、ネットワーク社会の現在と未来をwebやビデオを織り交ぜながら語って下さいました。

■メディア間の融合

 最近ではパソコンにカメラが付いたり、携帯電話で電子メールの送信が可能であったりと、様々なメディアがくっついてきています。武邑氏はそれを、出会いと表現され、携帯電話とリモコン、カメラの出会いなどで携帯電話の概念自体が大きく変わったり、デジタルテレビを代表として、あらゆる家電とネットワークの出会いで日常生活が変わったり、という近未来を思い描いておられました。この例のなかには、もちろんSONYのプレイステーション2も。つまり、ネットワークの出現で、あらゆるメディア間の境界線が消失し、融合がおこるということでした。
 冷蔵庫にも、デジタルアーカイブ。そんな日も意外に近いのかも知れません。

■コンテントへの転換

 こうして、メディアの融合が進むなかで今最も注目をされているのが、ネットワークを巡り、支えるコンテントで
す。武邑氏は、この点についても触れられていました。
 コンテンツとコンテント、この二つは違う意味を持っているのだそうです。コンテンツは一つの固まりとしての作品、例えば一本の映画などのこと。そしてコンテントは、コンテンツよりもっと小さな単位で、例えば一つの章だけ、などのこと。
 パワーとなるのは、コンパクトなサイズでネットワーク上を駆けめぐるコンテントだ、と述べられました。 コンテントは、国、地方、企業だけでなく、個人レベルの小さな単位が生み出すことのできるもの、そして神経網のようなネットワークに流通さえることのできるものなのだそうです。ネットワークを流れるいわば血、デジタルコンテント構築の模索が世界中でなされているのです。

■アメリカの記憶

 挙げられたコンテント構築の例として、アメリカの事例は非常に多かったと感じました。例えば、アメリカの歴史をすべてアーカイブし、インターネット上に公開するという「アメリカの記憶」そして後続の「世界の記憶」プロジェクト。そして、 センチ単位でズーミングできる地球の地理情報構築のためのデジタルアースティックというプロジェクト。これらが盛んなのは、アメリカでは、美術館、博物館、図書館といった実際に情報を格納してきた箱モノが一気に持てる資産をデジタル化して、開放しようと言う施策が行われているからなの
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